Story
2026.08.19
0.01ミリの歪みも許さない。「新車よりも美しく」。若き板金職人が掴み取った「日本一」の称号とその先
「群馬日産自動車 品質保証センター BR(鈑金塗装)工場。」
職人気質の男たちが集うこの場所で、2022年入社の若き才能が大きな偉業を成し遂げた。国内B&P(板金・塗装)技術大会の「若手板金部門」で見事、全国優勝を果たした男だ。
限られた時間と極限のプレッシャーの中で、彼はなぜ「日本一」の称号を掴み取ることができたのか。
幼少期から車に魅せられ、「新車よりも美しく」を胸に刻む若きプロフェッショナルの、情熱と挑戦の軌跡を追った。
Kさん
群馬日産自動車株式会社
品質保証センター BR工場
自動車整備学校 車体科を卒業後、2022年に群馬日産自動車へ入社。品質保証センターBR工場にて、お客様の事故車の板金修理を担当する。国内B&P術大会・板金若手部門では、関東大会を勝ち抜き見事全国優勝を果たした。
1. 「部品は交換するもの」だと思っていた。魔法のように車を直す板金の世界へ
幼い頃から自動車に興味があったK。親が自動車の塗装関係の仕事をしていたこともあり、高校生の頃には「車に関わる仕事に就く」と固く決意していた。自動車整備学校に進学し、当初は2級整備士を目指していたが、学びを深めるうちに一つの衝撃的な出会いを果たす。それが「板金」だった。
「小さい頃は、事故車を見たら『部品を交換して直すもの』だと思っていました。でも、へこんだ金属を自分の手で叩き出し、元の形に『直す』ことができると知ったんです。その面白さに惹かれ、3年生から車体整備科へ編入して板金の世界にのめり込みました」
整備が車検や点検など定型的な業務を含むのに対し、板金は事故によって傷の大きさも深さも毎回異なる。マニュアルのない世界に、Kはすっかり魅了されていた。
2. 「やってやる」。周囲の目と厳しい先輩の指導を乗り越えた特訓の日々
入社後、上司から国内B&P技術大会への出場を打診される。全国の日産販社から精鋭が集うこの大会。「自分の技術を試す絶好の機会だ。やるからにはとことんやってやる」とKは出場を決意した。
しかし、その道のりは決して平坦ではなかった。大会の練習は通常業務の後の18時から20時。メリハリをつけて毎日練習に励んだが、時には通常業務以外のことに時間を割く彼に、冷ややかな目を向ける者もいた。
「パテありの修理が苦手で、練習してもなかなか納得のいく仕上がりにならず、つらかった時期もありました。教えてくれる2人の先輩はとても厳しくて、滅多に褒めてくれませんでした。でも、先輩たちは『やるならやろうや』と、自分事のように熱心に面倒を見てくれたんです」
大会の課題車両と同じ練習台が用意できない環境でも、他の部品で代用して感覚を磨き続けた。大会直前には休日も返上し、ハンマーを握り続けた。
3. 全国の舞台で掴んだ日本一。「やってやったぜ」と心の中で叫んだ瞬間
そして迎えた全国大会。厳しい予選を勝ち抜いた猛者たちが集う中、Kの背中を力強く押したものがあった。それは、群馬日産の仲間たちの存在だった。
「現地に来られた人数は限られていましたが、オンライン観戦では群馬日産の応援が一番多かったんです。仕事中にもかかわらず、各地の社員が画面越しに応援してくれているのが分かり、本当に大きな励みになりました」
本番の極限の緊張感の中、Kは自分の持てる技術のすべてを出し切った。制限時間という壁に苦しんだ練習の日々が嘘のように、彼の手は正確に動き続けた。
「結果発表の前から、自分の出来栄えや周りの仕上がりを見て『いける』という自信がありました。優勝で名前を呼ばれた瞬間は、シンプルに『やってやったぜ』という気持ちでしたね。努力が報われたし、冷たい目で見ていた人たちを見返すこともできた。何より、一緒に戦ってくれた先輩たちに恩返しができました」
4. プロの技術とは「効率」。「元の状態に戻す」「新車よりも美しく」
日本一の称号を手にしたKだが、決して驕ることはない。彼の中には、先輩から受け継いだ明確な「プロとしての流儀」がある。
「先輩に言われた『元の状態に戻す』『新車よりも美しく』という言葉を常に意識しています。自動車は、パッと見た時の『第一印象』がとても大切なんです。そこに絶対の妥協はしません」
そして、Kが考える「プロの技術」は、単なる仕上がりの綺麗さだけではない。
「時間をかければ、行程通りに直すことは誰にでもできます。でも、プロは『効率』が良いんです。同じような事故に見えても、傷の大きさや深さに同じものは二つとありません。だからこそ、その事故ごとのセンスが問われる。作業の順序選びが適切で、時間と作業効率が良い技術者こそが本物のプロだと思っています」
5. 1年目から挑戦できる環境を背に。次なる目標は「ベテラン部門最年少優勝」
全国優勝という快挙を成し遂げた背景には、群馬日産という会社の懐の深さもあるとKは語る。
「他の会社に就職した同級生の話を聞くと、若い頃はパテ擦りなどの単純作業の土台作りしかさせてもらえないことが多いそうです。でも群馬日産は、1年目からパネル交換などの難しい技術にも挑戦させてくれる環境がありました。そのおかげで、他の人より早く成長できたんだと思います」
若き日本一の職人は、すでにはるか先を見据えている。
「今回は『若手部門』での優勝でした。次は、40代以上の職人たちがひしめく『ベテラン部門』での最年少優勝を目指します。そして技術的な目標は、廃車寸前のような大きな事故車を一人で任せられるようになること。今は工場長などの上の人が担当するような、どんなに大きな事故でも完璧に直せる板金職人になりたいです」
0.01ミリの歪みも許さない厳しい世界で、若き職人の「挑戦」は終わらない。群馬日産の誇る技術は、彼のその手で、確実に未来へと受け継がれていく。